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左)塩崎 由美子 「Una 2003」 2006年
1954年埼玉県生まれ。武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業。1993年に文化庁芸術家在外海外派遣員として渡欧。ストックホルム在住。
右)朝海 陽子 「ホームアローン、Tokyo」 2007年
1974年東京都生まれ。東京造形大学からロードアイランド・スクール・オブ・デザインで学び1998年同校卒業。川崎市在住。

日本の新進作家vol.7「オン・ユア・ボディ」

『日本の新進作家展』とは、写真や映像で新しい可能性に挑戦するその創造性ある精神を支援し、将来性のある作家たちを取り上げていこうという当館の理念によって生まれた展覧会です。2002年よりシリーズ化され、今年で第7回目を迎えました。
今回開催する『オン・ユア・ボディ』は、〈身体〉がテーマです。〈身体とジェンダー〉という問題については、ここ数年で急速な変化を遂げています。特に、女性の意識変化は大きいでしょう。特徴的なこととしては、女性の社会進出と晩婚化、少子化というところに表れています。女性たちの意識がグローバル化し、欧米並みに精神の自立が成されているのにも関わらず、社会のシステムがそれに追いついていない現状から起こっているのです。
さらにインターネットが普及し、社会にヴァーチャル化されたネットワークが誕生したということ。瞬時に同じ情報がいきわたる現代社会のなかで、私たちの意識としてもヴァーチャルリアリティーが現実と同じくらいに重要になってきています。
そのようななか、〈身体〉というのは最後に残された自分自身がコントロールのきく場であり、現実との戦いの場。その実感として、女性の意識の変化のなかで身体への関心が高くなってきていると思うのです。例えば、女性がメイクをしたり、スポーツクラブに通ったり、ダイエットに励むといった見える部分だけでなく、もっと内面的な問題を表現するための身体への執着心に焦点をあてたいと思ったのです。
今回は、そんな社会の問題や、日本の女性たちが抱いているさまざまな感覚を色濃く投影している6人の作家をご紹介します。


澤田 知子 「TIARA」 2007年

澤田 知子 「TIARA」 2007年
1977年兵庫県生まれ。成安造形大学卒業。在学中にキヤノン写真新世紀特別賞(2000)受賞。木村伊兵衛写真賞(2004)受賞。ニューヨーク在住。

まず、澤田知子さんですが、彼女は同年代の様々な女性に変装したセルフポートレートを撮っている作家です。自身が証明写真のなかの400人もの別人になりきったり、高校の卒業写真や30人のお見合い写真、コギャル、キャバクラ嬢など、さまざまな同世代の女性になりきり個人化の過程における試みをしていくなかで、非常に冷めた目線で現実を見据えています。白いドレスの女性が並んだ美人コンテストをテーマにした『TIARA』(新作)もそうですが、自分自身も含めた“若い女性”が、賞味期限付きで消費されている現実を非常にシニカルな目でとらえ、そして“若い女性”を装いながらも必死にやり過ごそうとする彼女たちへの共感が根底にあります。

志賀 理江子 「千愛子」 2007年

志賀 理江子 「千愛子」 2007年
1980年愛知県生まれ。チェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン卒業。木村伊兵衛写真賞(2008)受賞。ロンドン在住。

志賀理江子さんは、『CANARY』と『Lilly』で木村伊兵衛写真賞を受賞しています。現代のなかで巣くう闇や、自分が抱えている精神的な部分を、不穏な空気やおどろおどろしさとともにビジュアライズしていく作家です。
朝海陽子さんは、自宅でくつろぎながら映画を観ている人々の姿をカメラに収め、それぞれに『ホームアローン』や『バンビ』など、鑑賞している映画のタイトルをつけた作品を発表しています。見る、見られるということを意識しない日常のなか、映画を観る人物を被写体としているわけですが、そこには、これまで女性たちが見る立場ではなく見られる立場だったということが表現されています。
それと同じようなことが高橋ジュンコさんにもいえるのですが、彼女の場合は映像での作品です。ひとり都市のなかに超然として立つ女性、そしてその周りの光景だけがどんどん動いていくという映像に、見られるという表面上の美しさや、いかに見られるか、いかに振舞うかがその人の存在価値にまで結びついてしまうことを映し出しています。

高橋 ジュンコ 「Tokyo Mid 2」 2006-2008年横溝 静 「Forever(and again)」 2003年 ⓒ 芸術新潮 広瀬達郎(2003)

左)高橋 ジュンコ 「Tokyo Mid 2」 2006-2008年
1962年東京都生まれ。武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業。キヤノン写真新世紀優秀賞(1993)受賞。横浜市在住。
右)横溝 静 「Forever(and again)」 2003年 ⓒ 芸術新潮 広瀬達郎(2003)
1966年東京都生まれ。中央大学文学部を卒業後、チェルシー美術大学で彫刻を学び、ゴールドスミス大学で修士課程修了。ロンドン在住。

塩崎由美子さんと横溝静さんは老いをテーマにしています。塩崎さんは、写真とホログラフィを使ったスタイルを確立し、最近では「スウェーデンの病院とアート」と題するセミナー企画をするなど、医療現場におけるアートの可能性を探る活動も行っている作家です。今回は Una というロンドン在住の老女を被写体にドキュメンタリー風で私的な作品を作り上げました。
横溝さんは、 2 つの画面を用いて、かたや風景を、かたや老人が奏でるピアノの調べを延々と流し続けたビデオ・インスタレーション作品によって、人は身体の衰えをどのように受け入れていくか、限りある生命体と、自分自身の意識をどのように捉えていくかという問題を投げかけています。

今回は偶然にも女性作家ばかりが並びました。しかし、あえて女性だけを選んだわけではありません。自分自身のセクシャリティーを含め、身体性に焦点を当てた作家は圧倒的に女性が多いのです。それは、単に男性が考える女性の身体が、自分自身の理想像や幻想の対象であるというだけでなく、いま、女性たちが〈身体〉について考えざるを得ない環境におかれているからなのではないかと思います。これまで若さが一番高い価値であった女性たちの意識変化。女性たちが自らを含め〈身体〉を探ってきたその背景に、いったいどんな事情があったのでしょうか。本展が〈あなたの身体について〉を、考えるきっかけとなれば嬉しく思います。

(インタビュー 2008年7月)


笠原 美智子(かさはら・みちこ)
東京都写真美術館事業企画課長。明治学院大学社会学部社会学科卒業、シカゴ・コロンビア大学修士課程修了。1989年より東京都写真美術館学芸員。 2002年より東京都現代美術館学芸員を経て、2006年より現職。第51回ヴェネチア・ビエンナーレ(2005年)美術展日本館コミッショナー。


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