今日は展示作品について。
チラシや館林美術館のwebなどで紹介されているように、「夜明けまえ 知られざる日本写真開拓史Ⅰ.関東編」には、1854年に撮影・制作されたダゲレオタイプ(銀の板を使用した世界初の方式)の写真が出品されている。これはペリー提督率いるアメリカ艦隊が日米和親条約を締結するため、前年に続き来航した際に撮影されたもの。この時の写真は国内で5点、国外に1点(アメリカ・ビショップ博物館蔵)それぞれ異なる画像のものが発見されています。国内のものはすべて国指定重要文化財に指定されています。本展では、前期・後期それぞれに1点ずつ展示します。
ダゲレオタイプは、鏡面に磨き上げた銀の板に映像を結晶化させるもので、とにかく驚くほど鮮明で美しい画像です。この技法でサムライの姿が撮影されて現存しているのですから、必見は間違いなしです。
そして、本展ではもうひとつの国指定重要文化財が出品されています(前期後期の展示替えがあるので、正確には2点)。これが横山松三郎による江戸城の写真です。
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横山松三郎《(江戸城大手門)》明治4(1871)年 東京都江戸東京博物館蔵
国指定重要文化財
この写真は、コロディオン湿板方式によるネガ原板です。この時代はガラスがとても貴重でした。特に原板に使えるような平滑で気泡の少ないガラスは高価だった。そして、コロディオン湿板方式という写真方式は、乳剤層(コロディオン層)を剥がし落とすことが比較的容易なため、原板用のガラスをリサイクルして使用することがしばしばであったといわれています。この点だけとっても、この原板が現存すること自体とても貴重なのです。そして、原板を見ると上部に紙が貼られていて、その下には黒い部分がある。ネガ原板の最暗部ですから、プリントで考えると最も明るい部分ということになります。画面上でいうと、空の部分です。
コロディオン湿板方式の最暗部は灰白色ですから、露光によって黒い部分が生じることはありません。この黒い部分、墨なのです。
簡単に言ってしまうと、抜けるような空を表現するために修正を施してあるわけです。「修正」というと現在のフォトレタッチを思い浮かべてしまいがちです。レタッチした写真は、写真という枠から離れてしまうような印象さえあります。でも、当時の修正は、現在とは意味が異なります。一番違うのは、感光材料の感度です。以前、コロディオン湿板方式のワークショップを当館で行った時に測定したのですが、ISOに換算すると0.1~1しかありません。現在のデジタルカメラの設定は、基本が100~200ですから、極端にいうと二千分の一ということになります。ここまで感度が低いと、空を撮っても雲がブレてしまいかねないわけです。
つまり、実際に見えるものと違うものになってしまう。それならば、その部分を塗りつぶして、抜けるような空を作りたい。これは当然の成り行きのように思えます。しかし、言うは安し、行うは難し。実際にこの原板の墨の部分を見ると実に細かく手が入っている。当時の写真師にとって、筆を使うことは必須だったと実感できるのです。
幕末~明治時代初期の写真は、決して光学を用いた化学的な像だけで成立し得なかった。何らかのかたちで人が手を入れて画像を成立させていたと考える方が自然なのではないでしょうか。そう考えると、下岡蓮杖の名刺判や日下部金兵衛のアルバムに見られる手彩色のカラー写真というのも、自然なものに感じられませんか?
機械的に高度化する以前だからこそ、高度な技術を必要としたのだと考えると、古写真の面白味が一層深まるのではないでしょうか。
最後にひとつだけ、ご注意。この《(江戸城大手門)》(前期のみ展示。後期からは《(江戸城本丸書院二重櫓と重箱二重櫓》)は、あくまでネガ原板です。アンブロタイプと違い、それ自体を観るものではなく、あくまで鶏卵紙にプリントするためのものです。だから、とても濃度が高く、現在のネガフィルムを普通の光で観ることが難しいのと同様、画像自体はとても見にくいものです。本展では、先に述べた修正の部分を観て戴き、写真と手業の距離の近さを知って戴く目的で展示しています。
何が写っているかではなく、どうやって原板を作ったのかを是非堪能して下さい。
さて、最後に恒例となりつつあるおいしいもの情報。
館林のお隣はすぐに栃木県佐野市です。こちらには、珍しい「耳うどん」のお店があります。太いうどんをくるっとまとめて茹でてあります。ちょっとかわった食感で、個性的です。なぜかそば湯が出てくるのもちょっとミステリアス。美味しかったですよ。
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他ではなかなか味わえないものですから、ぜひお試しを。オススメです。